K&A's
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『独龍江郷』
５．１ 『Dead Heart
of China』
５．２ 『巴坡小学校』
５．３ 『藤蔓の橋』
５．４ 『独龍毛布』
５．５ 『感電フィッシング』
５．６ 『剽牛祭天』
５．７ 『顔容の白い蝶』
『 藤蔓の橋』 ［写真編］
さて、学校のそばには一本の橋が架かっていた。橋の名は「独龍橋」。大人の足幅ほどに並べた細い丸木を、藤の蔓で吊り下げただけの橋だ。とりあえず手すりの部分はワイヤーだったけれど、手すりと橋面をつないでいたのは藤の蔓、しかもところどころすでに擦り切れている。それでも住人にとっては生活路、子供にとっては通学路だ。
というわけで、見ていると五〇〜六〇メートルはあるその橋を、老いも若きも小枝を走り抜ける栗鼠のように、皆あっと言う間に渡り終えていた。飛沫をあげる急流。川底にはいくつもの巨大な岩石が無造作に転がっている。遠目に見ても足がすくむ物騒な光景が股下直下に見えようと、彼らは安全な足の置き場を本能的に知っているらば騾馬のように、少しも迷うことなく歩を進める。どんな方向に揺れようと決してバランスを崩すことはない。常に背筋は伸び、足取りは軽い。そのリズミカルな歩みに、蔓もきれいな波形を描いているようだ。この先にも似たような橋はいくつも架かっているが、彼らは荷物を担いでいようが、暗闇の中であろうが、躊躇することなく渡るのだという。
そんなふうに難なく向こう岸に辿り着く彼らを見ていると、なんだか誰にでもできそうな気がするのだけれど、いやはや、事はそんなに容易くない。いざ橋の上に立ってみると、まず揺れに気をとられて思うように足が前に出ないのだ。ふらつきながらもなんとか中央まで往復した同行の中国人たちは確かに勇ましくはあったものの、一歩間違えば橋ごと落ちてしまいそうだった。橋のたわみに抵抗して腕力で強引に進むので、蔓が必要以上にきしんで切れてしまいそうなのだ。リズミカルだからこそ切れずある。それはそういう橋だった。
そして最果ての地、一区は、そんな独龍橋よりもさらに絶望的に粗末な橋をいくつも渡ったその先にある、ということだった。
……つまりそこに行きたければ、まずはここで「安全な吊り橋の渡り方」をマスターしていかなければならないってことじゃないか。やれやれ。それは五十メートルのトランポリンの上を転ばずに走り抜けて見ろといわれているようなものだった。私は早々に目の前で風に吹かれて揺れている橋を渡るのを諦めた。必要がなければ無闇に危ない橋を渡ることはないのだ。どんな場合にも、きっと。